HDDに溜めてきた音楽ファイルには、いくつか出どころがあります。ネットで買ったもの、MDから移したもの、そしてCDから取り込んだもの。
このうちCDからの取り込みは、以前は音楽再生ソフトの機能で済ませていました。それを2年前から「Exact Audio Copy(EAC)」に切り替えています。読み取りエラーの検出と再読み取りに特化した無料ソフトで、CDのデータをほぼそのままPCへ写し取れます。
EACで取り込んだファイルを聴くと、音に瑞々しさを感じました。それで、手放していたお気に入りを中心に、CDをレンタルし直したり中古で買い直したりしています。まだ約20枚で、ライブラリ全体の1%にも届きません。再生回数の多いものから少しずつ、という進め方です。うち10枚は状態の良い中古を改めて買い直しました。
本記事では、EACの導入から無圧縮WAVE形式での保存まで、実際に試した手順で解説します。
なぜ「EAC」なのか?
PCで音楽を聴くなら、まず手元のCDをPCに取り込むところから始まります。取り込み機能は、たいていの音楽管理ソフトに標準で付いています。本サイトの別ページで紹介しているMusicBeeにもあります。つまり、入口は誰でもすぐにくぐれます。
ただ、同じCDでも取り込み方で印象は変わりました。MusicBeeの標準機能で取り込んだものと、EACで取り込んだものを聴き比べると、私の環境では後者のほうが音がクリアに感じられました。読み取りエラーを抑えて、元データをできるだけ正確に写し取れたからだと思います。
EACの特徴
- エラー検出と再読み取り機能
ディスクの傷や汚れによる読み取りエラーを検出し、問題のある箇所は複数回の再読み取りを行います。EACの本質的な強みはこの仕組みにあります。ただし、物理的な状態によっては完全な復元が難しい場合もあります。 - ロスレス(可逆圧縮)を含む多様なフォーマット出力
無圧縮のWAVE形式に加え、外部エンコーダーと連携することで、音質を維持したままファイルサイズを削減できるFLAC形式などにも対応しています。用途に応じたフォーマット選択が可能です。 - 個人利用は無料
高度な設定と高精度な読み取り機能を備えながら、個人利用であれば無償で使用できます。
EACで「WAVE(無圧縮)」取り込みを徹底する論理的な理由
EACは設定次第で、MP3やFLACなど多様な形式への変換も同時に行えます。しかし本記事では、あえて変換処理を行わず、WAVEファイル(無圧縮)として保存する方法を推奨します。
最初の取り込み段階では、音質やデータの正確性に影響する要素をできる限り排除したいからです。重要なポイントは以下の2点です。
理由1:MP3等(不可逆圧縮)による「データ欠落」の回避
MP3やAACで取り込む場合、人間の耳に聞こえにくいとされる帯域の情報が削減されます。不可逆圧縮となるこの処理では、失われた情報は、後から元に戻せません。どれだけ高性能な再生機材を使っても、削減されたデータそのものを復元することは不可能です。
そのため、最初の取り込み段階で不可逆圧縮を行うことは、「元データの情報量を減らす」ことを意味します。本記事では、最上流の工程ではできる限り元データを保持する方針を採用します。
ただし、容量や運用上の都合でMP3やAACを選ぶこと自体が誤りではありません。用途に応じた使い分けが前提です。
理由2:抽出と加工のプロセスを分け「何も足さない、何も引かない」データを確保する
現在主流のFLACは元データに完全に復元できる可逆圧縮形式であり、最初からFLACで取り込む方法も合理的です。一方でEACを使う本来の目的は、「CDに記録されたデータを可能な限り正確にPCへ取り込むこと」にあります。
この観点に立つと、まず優先すべきは「何も足さず、何も引かない状態での抽出」です。取り込みと同時に圧縮変換(エンコード)を行うと、「抽出」と「加工」という異なる工程が同時進行することになります。
本記事では工程を明確に分離し、まずWAVE形式(無圧縮)で基準データを確保します。
その後、必要に応じてFLACやMP3、AACへ変換すれば、データの信頼性と運用の柔軟性を両立できます。
なお、ストレージ容量や運用効率を優先する場合は、最初からFLACで取り込む方法も合理的な選択肢です。
そもそもCDは、MP3などの圧縮音源と同等のものとして語られることがあります。しかし両者は、データの作り方が根本から違います。
CDのデータは、音の波そのものをそのまま記録したファイルです。スタジオで作られる元の音源(マスター)と本質的に同じ仕組みで、波形を座標にプロットする「点」の細かさが違うだけになります。データとして音楽ファイルを観察した場合、マスターは「点が細かく」、それと比べるとCDは「点がやや粗い」という関係です。
(技術的には、CDの44.1kHzでも人の耳に聞こえる範囲は理論上きちんと再現されます。)
一方MP3やAACは、音の波形そのものを記録しません。人間の耳に聞こえにくい部分を間引いた上で、残りの音を数学的に圧縮しています。点をそのまま並べるのではなく、「点の並びをこういう式で表せる」という形に置き換えるイメージです。
なお、FLACも「圧縮」と名前がついていますが、こちらは完全に元のデータへ戻せる可逆圧縮です。CD(WAVE)と中身は同じで、ファイルサイズだけ小さくしたものと考えてください。MP3とは仕組みが全く違います。また、FLACでは安定してタグ(曲の情報、歌詞や画像の音楽ファイルへの組み込み)が使えるメリットもあります。
この内容はハイレゾ音源にも関係します。別ページにまとめていますので下記のリンクを参照してください。

導入手順(ダウンロードと日本語化)
EACは海外製ソフトのため、導入には少し手順が必要です。
ダウンロード・インストール
公式サイト(http://www.exactaudiocopy.de/)からインストーラーをダウンロードして実行します。インストール自体はウィザードに従うだけで、特別な設定は不要です。
ただし、公式サイトもインストール直後のソフトも英語表記のため、日本語化を行います。
日本語化パッチの適用
デフォルトでは日本語に対応していません。有志の方が作成した日本語化ファイルをダウンロードしてください。「EAC 日本語化」で検索すると見つかります。
ダウンロードしたパッチ(言語ファイル)は、通常以下のフォルダへ格納します。
C:\Program Files (x86)\Exact Audio Copy\Languages
初期設定と言語変更
ソフトを起動すると、初回はセットアップウィザードが始まります。日本語化を優先するため、ここでは一旦キャンセルします。
メニュー「EAC」→「EACオプション」→「全般(General)」タブを開きます。画面下部の言語選択で「Japanese」を選択すれば、日本語化は完了です。


設定とCDからPCへの音楽ファイルの取り込み方法
日本語化が完了したら、実際に取り込み設定を行います。
ドライブの設定
音楽CDをドライブに挿入し、メニュー「EAC」→「設定ウィザード」を起動します。初期設定のまま、画面の指示に従って読み込み設定(ドライブの性能テストなど)を完了させてください。
ドライブの読み取り設定については、基本的に設定ウィザードの案内に従って進めます。
ただし、CD情報の取得に使うデータベース設定は、初期設定のままだと不安定になる場合があります。

保存形式の設定(重要)
「無圧縮・高音質」とするため、以下の手順で設定します。
1.エンコードオプションを開く
「EAC」→「エンコードオプション」を選択します。

2.出力形式をWAVEに変更する
画面上部の形式選択から「WAVEフォーマット」を選びます。

3.コーデックを「Microsoft PCM Converter」に設定する
リストから「Microsoft PCM Converter」を選択します。
他のコーデックは音声が圧縮されるため選びません。

4.サンプルフォーマットを設定
「44.1kHz 16bit ステレオ」を選択します。CDの規格に合わせた値で、これ以外を選ぶとCDと異なる音質で保存されます。

これでCDのデータが無圧縮で、CDと同等の音質でPCに保存される設定が完了です。
リッピング後にファイルを聴いた際、CDとは違う印象に聴こえたことがありました。高音域の伸びが薄く、こもったような印象です。後で設定を確認すると、サンプリングレートを低い値に設定したまま取り込んでいました。
ここは「44.1kHz 16bit ステレオ」を確実に選んでください。
CD情報の取得(タグ情報)の注意点と鉄則
CDを入れた状態で、画面上のCDアイコン横にある「▼」マークをクリックすると、曲名などのデータベース選択が可能です。

注意点:デフォルトデータベースによるソフト停止の回避
EACを初期設定のままデータベースへアクセスすると、ソフトがフリーズ(応答停止)する場合があります。接続先のサーバーがすでに閉鎖されていたり、海外の不安定なサーバー(ロシア語サイト等)に接続され、通信タイムアウトが発生することが主な原因です。
これを回避するには、設定画面から代替サーバー(gnudbなど、日本語や英語に対応したデータベース)を手動で指定する運用を推奨します。
WAVEファイルへのタグ埋め込みの重要性
もともとWAVEは、音のデータだけを記録するシンプルな形式です。曲名やアーティスト名を書き込む欄は、本来は用意されていませんでした。
ただ、最近のソフトはWAVEにもこうした情報を後から書き込めるよう拡張しています。EACで取り込むときも、取得したアルバム名・アーティスト名・曲名を、ファイル側に記録できます。
ここで一つ注意があります。この情報欄はWAVE本来の正式な仕組みではありません。そのため、再生する機器やソフトによっては読み取れず、「不明なアーティスト」と表示されることがあります。読めたらラッキー、くらいに考えておくのが気楽です。
とはいえ、入れておく価値は十分あります。後工程で使うMusicBeeのようなソフトは、WAVEに書き込んだ情報も正しく読み取って管理できます。最上流の取り込み段階で正確な情報を紐づけておけば、後の曲探しやマツダコネクトでの再生がぐっと楽になります。一部の環境で読めないからといって、入力を省くのはもったいないと思います。
リッピングの実行:純粋なマスターデータ(WAV)の抽出と階層管理
タグ情報など事前設定が整ったら、CDからPCへの物理的なデータ抽出(リッピング)を開始します。EACのメニューから「WAV(エンコードなし)」でのコピーを選択するか、画面左側のアクションアイコンから取り込みを開始します。
トラック単位での抽出は「IMG」ではなく「WAV」を選択
左側のアイコン群から、必ず「WAV(選択したトラックを非圧縮でコピー)」を選択してください。
「IMG(イメージをコピー)」は、CD1枚の全楽曲を1つの巨大なファイルとして吸い出す形式です。曲ごとに選曲・再生する現代のファイル運用とは相性が悪く、後工程で扱いにくくなります。独立した生データとして切り出す「WAV」を選択するのが鉄則です。
保存先の指定と論理的なフォルダ構造の構築
実行するとデータの保存先(出力先)を聞かれます。ダウンロードフォルダ等に無造作に保存するのではなく、整理されたフォルダ構造に保存することを強く推奨します。
具体的には、PC(または外付けHDD)内にあらかじめ「PCオーディオ用ライブラリ」などの大元フォルダを作成し、その配下に「アーティスト名」>「アルバム名」の階層を作っておきます。最上流のリッピング工程でこの構造を整えておくことで、後工程のソフトに読み込ませた際の「楽曲の迷子」を防げます。
正確なリッピングがもたらす音質的優位性とPCオーディオの真価
EACで厳密にエラー訂正と読み取りを行ったデータは、それまで手軽な方法で取り込んでいたファイルとは、聴感上で違いを感じる場面がありました。
もちろん、最終的に耳に届くアナログ出力のクオリティは、DAC(D/Aコンバーター)やアンプ、スピーカーといった後段のハードウェアに大きく依存します。それでも、システムの最上流にある「ソース(音源データ)」の段階で情報が欠落していれば、どれほど高級な機材を用いても、その真価を発揮することはできません。
「PCでの再生は専用のCDプレーヤーに比べて音が悪いのでは?」という印象を持っている方ほど、正確に取り込んだ音源データを再生したときに、PCオーディオの印象が変わる可能性があります。
リッピングはデジタルオーディオの最上流工程です。ここで生じた欠落や誤りは、後段の再生環境では補えません。「CDのデータをできる限り正確に取り込む」という目的において、EACは現実的で信頼性の高い選択肢です。
マスター音源の活用方法
マスター音源としてPCに保存した音楽ファイルは、まずはそのPCで再生してみましょう。
PCで無料で音楽を再生できる「MusicBee」というフリーソフトの使い方は、別記事のシリーズで紹介しています。基本的な使い方から、高音質再生、PCから他のデバイスへの音楽ファイル転送まで、複数回に分けて取り上げているので、ぜひ参考にしてください。

マスター音源の長期保存方法
PCに保存した音楽ファイルは、HDDやSSDといったストレージに蓄積されていきます。ただし、これらのストレージは「すぐに読み込める状態の維持」を重視した設計で、長期保存には向きません。
長期保存に適したメディアとその使い方は、別記事でまとめています。HDD・SSD・クラウドだけでは守りきれない理由と、M-DISCを使った実践手順を解説しているので、こちらもぜひ参考にしてください。

