オーディオ機器には「エージング(Aging)」という言葉があります。新品の機器はまだ本来の力を出しきれておらず、使い込むうちに音がこなれてくる——そういう考え方です。
正直、最初は半信半疑でした。でも自分で何度か経験するうちに、「これは確かにある」と思うようになりました。
この記事では、私がエージングと向き合ってきて辿り着いた、今の考えを書いてみます。
エージングという概念は本当なのか?
スピーカーであれば、振動板を支える部分のテンションが使ううちに馴染んでいき、音に深みが出てきます。

アンプであれば、内部のコンデンサーに電気が流れることで電解液の働きが整い、設計どおりの特性に近づいていく——そんなふうに言われています。


ただ、これを理屈で説明しようとすると難しく、「オカルト」として扱われることも少なくありません。スピーカーのテンション変化やコンデンサーの自己修復が、人間の耳に分かるほど音を変えるのか。正直、怪しい部分もあると思っています。
なので、「そういう考え方があって、実際に体験できることもある」——そのくらいの距離感で捉えておくのがちょうどいいのかもしれません。ただ私自身、最近になって”劇的な経験”をしたので、それは別ページにまとめました。

エージングのやり方——ツイーターを専用CDで鳴らした話
私の経験から言うと、まずは最低100時間、できれば300時間くらいは鳴らし続けてみることをおすすめします。それでも納得できなければ、機器の入れ替えを考えるのが現実的です。そのくらい鳴らして変わらなければ、その後に大きく音が良くなる可能性は低い、と考えていいと思います。

以前カーオーディオを取り付けたとき、ツイーター(高音を出すスピーカー)のエージングを早めるために、ショップが専用CDを1時間ほどかけてくれたことがありました。その結果、高音が短時間でずいぶん聴きやすくなって——これを目の前で体験したことが、私がエージングを信じるようになったきっかけです。
なお、エージング中に大音量を出したりイコライザーをかけたりすると、変な癖がつくとも言われています。本来は「音の変化そのものを楽しむ」くらいの気持ちでいるのが精神的にもいいのですが……早く理想の音に近づきたい気持ちは、やっぱり抑えられないんですよね。

DACのエージングに期待してダメだった話
以前、デスクトップPC用のDAC(デジタル信号をアナログ音声に変換する機器)兼ヘッドホンアンプが壊れたことがありました。しばらくは電源を入れてしばらくするとノイズが消えて正常に動く、という状態でしたが、やがて音そのものが出なくなりました。
新しい機器を買い直したものの、結局3回買い替えて、納得できる音の環境にたどり着くまで2年ほどかかりました。どの機器も300時間くらいはエージングを試したのですが、ダメな機器はどれだけ鳴らしても「いい変化」を感じられず、最後は諦めるしかありませんでした。
エージングが劇的に効くこともあれば、まったく変化を感じないこともある。それが、エージングの正直なところだと思っています。
エージング完了と『いい音』の見極め方
好きな音楽や映画・ドラマを楽しんでいるとき、音がいい状態だと、自然と中身に集中できます。アーティストの息遣いや、歌詞の意味のほうに意識が向く。逆に、音に違和感があったり、聴いていて楽しくなかったりするなら、まだエージングが足りないのかもしれません。
普段使いで300時間ほど鳴らしても違和感が残るようなら、その環境を無理に使い続けることはないと思います。オーディオは、結局のところ自分が気持ちよく聴けるかどうかが全てですから。

機器のエージングと、「耳のエージング」は別もの
少し余談になりますが、エージングの話で、ひとつ正直に書いておきたいことがあります。「音が良くなった」と感じるなかには、機器が変化したのではなく、自分の耳がその音に慣れただけ、という部分がかなりあると思うんです。
私が長く使っているイヤホン、Etymotic Research の ER4SR がいい例です。正直、聴き始めはそれほど「いい音」とは思いません。低音もあまり出ない。ところが FiiO の BTR5 につないで聴き込んでいくと、2時間ほどで耳が馴染んできて、目の前の景色が、聴いている曲のプロモーションビデオみたいに見えてくる瞬間があります。それくらいの没入感はあります。
ただ、これは「買ってから音が変わった(=機器のエージング)」というのとは少し違う気がしています。ER4SR の前は ER-4P を2006年から10年ほど使っていて、その後継として買ったのですが、ER4SR も最初からそこそこ良く、聴き込むたびに引き込まれる。つまり変わっているのは機器ではなく、「その時に、その音に対する自分の耳」なのだと思います。
ちなみに ER4SR は、ノイズキャンセリングではなく、耳栓のように物理的に遮音するタイプです。デジタル処理で消すのではないぶん、音が自然でここがとても気に入っています。
なお ER4SR は、音の出口にあるフィルター(消耗品)が目詰まりすると音がこもります。実は私もここ1年ほど交換をサボっていて、先日、外出先で聴いたときにいつもの感動がなかったのは、たぶんそのせいです。これはエージングとは別の、単純なメンテナンスの話ですが、見落としがちなポイントです。
いい音かどうかを判断する基準
「いい音」を判断する耳を育てるには、できるだけたくさんの機器で音楽を聴くのが近道です。聴くたびに「なぜこの音をいいと感じたのか」「どんな音色が自分の好みなのか」を意識する。それだけで、少しずつ自分なりの基準ができてきます。
オーケストラの生演奏や、自然の音に触れるのも有効です。録音された音と聴き比べると、「いい音かどうか」が相対的に分かるようになります。
なお「原音に忠実な再生こそ高音質」という考え方もありますが、私は必ずしもそうは思いません。高音が少し濁っていても、低音に迫力が足りなくても、トータルで聴いて気持ちよければ、その時の自分にとっては最高の音。そう考えています。
オーディオで感動したことはありますか?
その後、もっといいと感じる音に出会うこともあるでしょう。そのときは、新しい基準に合わせて『いい音』を更新していけばいいだけです。
オーディオを続けてきてよかった、新しい機器を買ってよかった——そう感じる瞬間は、アーティストが伝えたかったことや、歌詞に込めた感情が、音楽を通してふっと理解できたときだったりします。
さっき「違和感を感じなければいい」と書きましたが、逆に「何も感じない」のだとしたら、オーディオ機器としては少し物足りないのかもしれません。違和感がないことも大事。でも、感性をくすぐるような音の気配があるかどうかも、いい音かどうかの判断材料になると思っています。
再生できない場合は下記のリンクを参照ください。
https://www.youtube.com/watch?v=jSYmHyoUK2c
エージングが起こる物理的な理由
エージングの仕組みは、完全に解明されているわけではありません。ただ、次の3つの現象については物理的に説明がつきます。
- 接点の接触安定化
コネクタや端子部分で、振動と通電の繰り返しにより接触抵抗が下がっていきます。 - スピーカーエッジの柔軟化
振動板を支えるエッジ部分が振動の繰り返しで馴染み、低音の出方が自然になります。 - コンデンサの電気的安定化
アンプ内部のコンデンサは通電を繰り返すことで電解液の状態が安定し、設計値通りの特性に近づきます。

一方で、「ケーブルや銅そのものが変化する」という話は、物理的に説明するのが難しいのが実情です。「結晶構造の自己修復」といった主張も、普通の使い方ではまず起きにくい現象です。
エージングの効果は、「素材そのものの変化」というより、「機械的な馴染み」と「電気的な安定化」が組み合わさったもの——そう考えるのが自然なようです。

エージングをはじめ、音質に関するさまざまな考察記事を「オーディオ考察」としてまとめています

理論と体験に基づいたオーディオ全般に関する高音質化の考え方

