イコライザー(EQ)とは?
オーディオを触ったことがある人なら、一度はEQをいじった経験があるのではないでしょうか。
音を周波数帯ごとに上げ下げして、低音に厚みを足したり、高音を伸ばしたりできる機能です。スマホの音楽アプリにも、車のオーディオにも、たいていは搭載されています。
低音を少し持ち上げると迫力が出る。ボーカル帯を上げれば歌が前に出てくる——スライダーを動かすたびに音が変わるので、いじり始めると面白くて、ついつい時間が経ってしまう。私もずいぶん遊びました。
ただ、長く付き合ってみると、EQは思ったほど「いい音」への近道ではないと感じるようになりました。むしろ、いじればいじるほど迷子になってしまうことのほうが多い。打つ手段がないので最後の切り札として少し補正をするくらいがちょうどいいかもしれないと思っています。
このページは、そんなEQとの付き合い方を、自分なりに整理してみたものです。
EQで何ができて、何ができないのか
EQでできることを整理すると、だいたい次のあたりに収まります。特定の周波数帯域を強めたり弱めたりすること、聴き疲れの原因になっている帯域を抑えること、そして全体のバランスを自分の好みに寄せること。
並べると万能そうに見えますが、実際にやれるのは「いま鳴っている音を整える」ことだけです。元の音源に入っていない情報を、EQで掘り起こすことはできません。低ビットレートのMP3をEQでCD品質に近づける、といったことは原理的に無理な話です。

例えるなら、EQは料理の塩こしょうに近い存在だと思っています。味を整えることはできても、素材そのものを差し替えることはできない。素材の質が頭打ちになっているのに塩こしょうで粘ろうとすると、たいてい無理が出ます。
EQも同じで、できる範囲をはみ出した瞬間に、不自然さが顔を出し始めます。
EQ調整の難しさ
EQで本当に「いい音」を作るのは、思っている以上に難しい作業です。調整した直後は満足していても、しばらく時間が経つとまた別のところが気になり始める。終わりが見えにくいんです。

私はレンタカーを使う機会がそれなりにあるのですが、乗るたびに、ついEQをいじって少しでもいい音にしようと試してしまいます。楽しいのですが、いい音にするにはかなり難しいと毎回感じてしまう。
調整している最中は「お、いい音になってきたぞ」と感じます。
ところが、一度車を降りて用事を済ませ、戻ってきてからもう一度聴いてみると、思ったほど変わっていないことに気づく。
なぜそう感じたのかを考えながら、また少しいじって、また降りて、戻って聴き直す。それを繰り返して、返却時間が近づく頃に自分なりの「いい音」が形になったら、好きな曲を一曲じっくり聴いてみる——のですが、途中で「うーん、そこまででもないな」と感じてしまうことの方が多いんです。
理由は単純で、EQ調整の効果は、その車のオーディオシステムの素性に大きく左右されるからです。素性そのものは書き換えられないので、どこかに上限がある。前のセクションで書いた「塩こしょうでは素材を変えられない」という話の、ちょうど実例みたいなものですね。
もう一つ難しいのは、「いい音かどうか」を判断する自分側の問題です。EQ調整は、頭の中にある「目指したい音」に向かって近づけていく作業なので、そのイメージがぼんやりしていると、ゴールが定まらない。終着点のないチューニングは、いつまでも続けられてしまいます。
高品質なオーディオにEQは必要か?
このあたりまで考えてくると、ひとつの疑問が浮かんできます。
本当によくできたオーディオシステムに、そもそもEQは必要なのだろうか、と。
オーディオシステムというのは、本来、設計・製造の段階で音質が作り込まれているものです。作り手の側には「こういう音を聴かせたい」というビジョンがあって、ユニットの選定からチューニングまで、その音に向かって仕上げられていきます。
完成品は単なる再生装置ではなく、世界観ごとパッケージされたもの。
本来は「この音が好きだから」という理由で選ぶものだと思っています。
そう考えると、EQで大きく調整しないと聴けないシステムというのは、二つの可能性のどちらかです。
一つは、そのシステムが自分の求めている音とそもそも合っていない場合。
もう一つは、システム自体の素性に限界がある場合。
どちらにしても、EQで粘ったところで根本的な解決にはなりません。それなら潔く別の機器を選び直すほうが、結果的には近道だったりします。
つまり、高品質なオーディオほどEQの出番は少ないはず——というのが、いじり倒した末にたどり着いた私の答えです。
カーオーディオとEQの現実
とはいえ、すべてのオーディオを自分の理想で選べるわけではありません。
特にカーオーディオは、その典型例です。
ホームオーディオなら、好きなアンプとスピーカーを組み合わせて、納得のいくまで自分の音を作っていけます。気に入らなければ買い替える選択肢もある。
ところが車のオーディオは車種やグレードに紐づいていて、後から自由に選び直すというわけにはいきません。
そもそも、音質を最優先に車を選ぶ人というのは、現実にはほとんどいないはずです。
デザインや燃費、価格、運転のしやすさ——優先順位のリストの中で、オーディオが上位に食い込んでくることは稀です。
だから納車されてみて「思っていたより音がイマイチだな」となっても、それはある意味で必然なんです。
こういう制約の中であれば、EQを使うのは理にかなっています。ただし、コツは「いじりすぎないこと」だと思っています。具体的には、高音と低音のバランスを整える程度で十分です。全帯域を細かく動かして詰めていくよりも、この二点をざっくり調整するだけで、たいていの場合は聴きやすい音に近づきます。先ほどのレンタカーの話と違って、自分の車なら毎日付き合うことになるわけで、「正解を出しすぎない」ほうが結局は長く付き合えます。
ちなみに、私自身のマツダ車に搭載されているメーカーオプションのBOSEサウンドシステムは、最終的にEQ不要の状態に落ち着きました。購入時からそうだったわけではなく、走行距離を重ねていくなかでユニットがエージングされ、徐々に音が変化していった結果です。
詳しくは別記事「【マツダコネクトでMusicBeeの音楽を聴く!】BOSEサウンドシステムのエージングによる変化」にまとめていますが、最終的にEQをフラットにして聴くようになったという事実は、「いいシステムにはEQが要らない」という前のセクションの考え方を、自分自身の体験として裏付ける形になりました。

EQは状況を見て使う
ここまで書いてきたことを、最後に少しだけ整理しておきます。
高品質なシステムでは、EQは基本的に不要です。もし大きく調整しないと聴けないなら、それはEQで解決すべき問題ではなく、機器そのものを見直すサインだと思っています。
カーオーディオのように機器を自由に選べない場面では、EQの出番があります。ただしいじるのは、高音と低音のバランスを軽く整える程度。全帯域に手を出して正解を探し続けると、たいていは迷子になります。
そして、もともと素性に限界のあるシステムをEQで救おうとしても、補える幅はそう広くありません。塩こしょうで素材を変えられないのと同じです。
——こうして並べてみると、EQそのものが悪いわけではないんです。ただ、万能の音質改善ツールとして頼ってしまうと、たいていは期待外れに終わる。出番は意外に少なくて、ここぞという場面で控えめに使う道具、というのが、長く付き合ってきた末の私の落ち着きどころです。
EQの前に、まずいい音源と、自分の好みに合った機器を。
そのうえで足りないところを少しだけEQで整える。
順番を間違えなければ、オーディオはもっと楽しめると思っています。


コメント