オーディオアンプには、音楽信号の増幅に真空管を使う「真空管アンプ」というジャンルがあります。
現在のアンプには、高効率で発熱の少ない機種がある一方、純A級アンプのように、動作方式によって発熱が大きくなるものもあります。そのなかでも真空管アンプは、現在の基準で考えればかなり古い増幅方式です。発熱が大きく、真空管の交換も必要になるなど、わかりやすいデメリットがあります。
それでも、真空管アンプは現在まで作り続けられています。なぜ、これほど手間のかかる方式が残っているのか。その理由を、情報として知るだけではなく、自分の耳で確かめてみたいと思いました。
使用した真空管アンプ|TRIODE Ruby
私が購入したのは、TRIODEの「Ruby」という、小型で比較的導入しやすい真空管プリメインアンプです。

Rubyは、真空管A級シングル方式を採用したアンプで、使用する真空管は6BQ5(EL84)が2本、12AX7(ECC83)が2本、定格出力は3W+3W(8Ω)と、現在の一般的なアンプと比べると非常に小さな出力です。

本体サイズは幅190mm、奥行180mm、高さ135mm。重量は4.7kgありますが、設置面積は小さく、机や棚のちょっとしたスペースにも収めやすいアンプです。ヘッドホン出力にも真空管回路が使われているため、スピーカーだけでなく、ヘッドホンでも真空管アンプの音を楽しめます。
Rubyを購入した理由
Rubyを購入した背景には、故障したCEC DA53Nの後継機探しで、一度失敗した経験があります。
そのときは、「○○というDACチップを贅沢に何個搭載」といった、部品やスペックを強く打ち出した宣伝文句にひかれて機器を選びました。しかし、実際に聴いてみると、自分の好みとは合いませんでした。この経験から、部品の名前や搭載数だけで音の良し悪しを判断するのではなく、その方式を長く扱ってきたメーカーの製品を選びたいと考えるようになりました。
TRIODEは真空管アンプを中心に製品を展開しているブランドです。真空管をアンプとして生かすための経験を積んでいるメーカーなら、初めて試す製品としても納得しやすいと考えました。
そのなかでもRubyは比較的手が届きやすく、真空管アンプの音を試すには適した製品に思えました。
使用期間と組み合わせた機器
私がRubyと組み合わせていた機器は、次のとおりです。
- DAC:iFi audio ZEN One Signature
- スピーカー:自作スピーカー
- ヘッドホン:SENNHEISER HD650
Rubyを購入して約1か月後に真空管を交換し、その後は約2年間使用しています。
常時使うアンプではなく、時間をかけてじっくり音楽を聴きたいときに、電源を入れることが多い機器です。
実際に使って感じた音の特徴
ここで書く音の印象は、電源を入れた直後ではなく、しばらく音を出し、私の耳に音が安定したと感じられた状態を前提にしています。
最初に感じたのは、音の柔らかさと繊細さです。
音を強く前へ押し出すというより、角を立てず、穏やかに広げていくような鳴り方をします。刺激が少なく、長時間聴いていても疲れにくい。いつまでも音楽を聴いていたくなるような音でした。
一方、私の自作スピーカーとの組み合わせでは、低音の量感や押し出しはかなり控えめでした。高音や中音の繊細さは魅力的ですが、低音の迫力を求める用途には物足りなさが残りました。
真空管を交換しようと思った理由
Rubyの音は全体として柔らかいのですが、聴き続けていると、音の一部にわずかな硬さやこわばりを感じることがありました。
何か改善する方法がないか調べたところ、真空管を交換して音の変化を楽しむ、いわゆる「球転がし」という方法があることを知りました。
真空管アンプの中心にある部品を交換すれば、音の印象も変わるかもしれません。交換して気に入らなければ元に戻すこともできますし、試せないほど高価というわけでもありません。
気になったまま使い続けるより、実際に交換して確かめてみることにしました。
実際に交換した真空管
Rubyに標準で使われている4本の真空管を、次の製品へ交換しました。
- JJ EL84/6BQ5 2本マッチ:2本
- ELECTRO-HARMONIX 12AX7EH:2本
出力管のEL84/6BQ5は、特性のそろった2本を組み合わせたマッチドペアを選びました。12AX7EHも2本用意し、合計4本をすべて交換しています。
Rubyは自己バイアス方式なので、同じ規格の真空管への交換であれば、交換後に自分でバイアス調整をする必要はありません。ただし、使用直後の真空管は非常に高温になるため、電源を切って十分に冷えてから交換しました。
電源を入れてすぐには音が出ない
私のRubyは、電源を入れても最初の約10秒間は音が出ません。その後、片方のチャンネルから先に音が出て、少し遅れて両方のチャンネルがそろうことがあります。
真空管は、電源を入れてヒーターで内部を温め、電子を放出できる状態になってから増幅動作を始めます。そのため、半導体アンプのように、電源を入れた直後から音が出るわけではありません。
片側だけ先に鳴り始める理由までは確認できていませんが、10秒ほどすると左右とも正常に鳴り、その後の再生には問題ありません。
音楽を聴くときは、実際に聴き始める1時間ほど前に電源を入れていますが、絶対に1時間必要という意味ではありません。私には、少し時間を置いたほうが落ち着いて聴ける状態になると感じられます。
このように、Rubyは電源を入れてすぐに使えるアンプではなく、先に電源を入れ、真空管が温まるのを待ち、聴き終わったあとは発熱にも気を配る必要があります。
いろいろと手間はかかりますが、その手間をかけても聴きたくなる音があるものです。この待ち時間を音楽を聴く前の楽しみと感じるか、面倒な準備と感じるかで、真空管アンプの評価は大きく変わると思います。
真空管交換で変わったと感じた部分
真空管を交換して最も強く感じたのは、音がさらに優しくなったことです。
Rubyを導入したときに良いと感じた、柔らかさや繊細さが、さらに自分の好みに近づきました。交換前に感じていた音の硬さも薄れ、全体がすっきりと自然につながるようになった印象があります。
大きく別のアンプに変わったというより、Rubyがもともと持っていた長所が、もう一段引き出された感覚です。
自分の好みの音になってくれたため、真空管を交換した意味は十分にありました。
Rubyの良かったところ
音以外では、小型で設置しやすいこともRubyの良さです。
真空管が光る様子と赤い筐体の組み合わせも美しく、アンプそのものが部屋の雰囲気を作ってくれます。ただ音を再生するための機械ではなく、電源を入れて音楽を聴く時間まで少し優雅にしてくれるところがあります。
この感覚は、一般的な半導体アンプではなかなか得られない、真空管アンプならではの楽しさだと思います。
真空管を交換しても変わらなかった部分
真空管を交換しても、低音の量感や迫力は大きく変わりませんでした。
私が組み合わせた自作スピーカーは、カーオーディオ用ユニットをもとに製作したもので、定格入力は100Wです。ただし、スピーカーの鳴らしやすさは定格入力だけで決まるものではありません。能率やインピーダンス、ユニットやエンクロージャーの設計なども関係します。
それでも実際に組み合わせた結果として、3W+3WのRubyでは、私が求める低音の量感やスケールまで引き出すことはできませんでした。
吸音材の量やツイーターの減衰量も調整しましたが、根本的な解決にはなりませんでした。真空管の交換で音色は好みに近づいても、アンプの出力そのものが増えるわけではないため、この部分は変えようがありません。
Rubyをスピーカーで使う場合は、低出力アンプでも鳴らしやすい、能率の高いスピーカーとの組み合わせを検討したほうがよいと思います。あるいは、HD650のようなヘッドホンを組み合わせ、ヘッドホンアンプとして使う方法もあります。
メーカーの取扱説明書にも、低域の多い音源を大音量で再生すると、出力トランスの仕様上、歪みや音割れが生じる場合があると記載されています。
低音を力強く鳴らしたい人にとって、ここはかなり大きな制約です。一方で、低音の迫力よりも、音の繊細さや温もりを優先したい人には、Rubyの方向性が合う可能性があります。
私自身、この経験から、さらに出力の大きな真空管アンプも試してみたくなりました。
発熱・ノイズ・設置で気をつけたいこと
私の個体では、電源を入れた直後に片チャンネルの音がすぐに出なかったり、左右の音量が安定しなかったりすることがありました。しばらくすると安定しますが、これがRuby全体に共通する仕様とは確認できていません。
片側の音が出ない状態が続く場合は、暖機の問題と決めつけず、接続や真空管の状態を確認する必要があります。
また、発熱は想像していた以上でした。小型の筐体ですが、使用中の真空管は非常に高温になります。夏場に使うのをためらうほど、周囲にも熱を感じます。
真空管を直接触れにくくするカバーは付属していますが、メーカーも使用中はカバーを取り付けるよう案内しています。真空管や本体が十分に冷えるまでは、交換や清掃をしないほうが安全です。
設置するときは、通風口をふさがず、安定した場所を選び、周囲に燃えやすいものを置かないことも大切です。地震などで転倒しないよう、設置場所にも気を配ったほうがよいと思います。
真空管の交換とメンテナンス
真空管は永久に使える部品ではないため、長く使うなかでは交換が必要になる可能性があります。
Rubyの真空管は、ソケットから抜き差しして交換できます。自己バイアス方式なので、メーカー指定と同じ規格の真空管へ交換する場合、交換後の調整は不要です。
ただし、使用直後の真空管は非常に高温です。交換するときは電源を切り、電源プラグを抜いて、十分に冷えてから作業する必要があります。
真空管のソケット部分は接触状態が気になりますが、メーカーはソケットやセレクターなどに接点復活剤を使用しないよう案内しています。接触不良やノイズが続く場合は、自分で薬剤を塗るのではなく、メーカーや販売店へ相談したほうが安全です。
約2年間使って発生した不具合
Rubyを購入して約1か月後の2024年6月に真空管を交換し、それから約2年間使用しています。
常時使っているわけではなく、時間をかけてじっくり音楽を聴きたいときに限って使っていますが、現在まで大きな故障や不具合は発生していません。
電源投入後、音が出始めるまで約10秒かかり、片側のチャンネルから先に鳴り始めることはあります。しかし、その後は左右とも正常に鳴り、再生中に音が途切れたり、音量が不安定になったりすることはありません。
この内容なら、「電源投入後の約10秒」と「音楽を聴く前の約1時間」を混同せず、気を遣う機器であることも率直に伝えられます。
現在振り返って感じるRubyの良さ
Rubyの魅力は、音の温もりと、余韻の自然さです。
音を強く誇張して聴かせるのではなく、細かな音を柔らかくつなぎ、音楽を落ち着いて聴かせてくれます。ただし、入力する音の不自然さまで都合よく消してくれるわけではありません。私の印象では、上流側のDACやCDプレーヤーの音も、そのままRubyの音に影響します。そのため、Rubyと組み合わせるDACやプレーヤーには、自分が本当に気に入っているものを選びたいところです。
購入前に知っておきたいこと
購入前に知っておきたいのは、次の点です。
- 使用中の真空管は非常に高温になる
- 電源を入れてから1時間程度は、準備時間と見た方がよい
- 3W+3Wなので、スピーカーとの相性が大きい
- 低音の量感や大音量再生を優先する用途には向きにくい
- 真空管の交換や将来のメンテナンスも考える必要がある
- DACやスピーカー、ヘッドホンとの組み合わせによって、導入効果が大きく変わる
とくにスピーカーとの相性は重要です。Rubyを導入するだけで、どのような環境でも真空管らしい音を楽しめるとは限らないと考えます。
まとめ|TRIODE Rubyを現在どう評価するか
Rubyの音は、とても気に入っています。
柔らかさ、繊細さ、温もり、自然な余韻。私が真空管アンプに期待していたものを、わかりやすく聴かせてくれるアンプでした。真空管を交換したことで、その長所をさらに自分の好みに近づけることもできました。
一方で、発熱が大きく、電源を入れてすぐに本領を発揮するわけでもありません。出力は3W+3Wと小さく、組み合わせるスピーカーにも気を遣います。低音の迫力や手軽さを重視するなら、別の方式のアンプを選んだほうが合理的です。
それでも、環境をきちんと整えれば、Rubyには一般的なアンプとは違う、他では得にくい音楽の楽しさがあります。
メリットだけでなく、発熱や出力の小ささといったデメリットまで、真空管アンプらしさがはっきり表れている。その点も含めて、TRIODEらしい、素直な真空管アンプだと感じています。

